最期の別れ

 ――織姫、済まなかった。俺は全部知っていたんだ、知っていたのにお前に教えなかった。

 ――辛かったろう、苦しかったろう。許してくれ。済まなかった…。


 俺屍さんに51ノ御題No.9『懺悔』は、俺屍十周年祭『親馬鹿全員集合!』に投稿させて頂いた北辰

家5代目当主・織姫(おりひめ/女子28番/風髪風目風肌/薙刀士)とその交神相手の大隈爆円でお

送りしました。

 織姫は4代目当主天狼と那由多ノお雫の娘です。ふたりは交神月の間に恋仲になり、そんな二人の

間に生まれた織姫は両親から愛情を注がれて育ちましたが、お雫さんの子というのは一歩間違うと

火の要素がからっきし出てこないという致命的な弱点があり…(日下部家の梁がそう)。御鏡では

むしろいい方だけが突出して凄く強い子が生まれたんですが、織姫はかなり頑張っていい素質が出

るようにしてみたものの、懸念していたとおり火のパラメータがまるで伸びませんでした。

 水神の子なので、ゲームデータ上では体の水は結構伸びてたんですが、とにかく火の要素が伸び

ずダメージがちっとも行かなかったので、そこから転じて織姫には『生来体が弱く、戦をするのは

不向き』という設定ができました。



 この子は鬼との過酷な戦に耐えられないのでは、と懸念したお雫は、天界にそのまま留め置くこ

とはできないかと昼子に訴えでてみたのですが、結局聞き入れてもらえなかったため、織姫は通常

よりも少し遅く北辰家に来訪することになりました。織姫も自分の体が弱いことを知りつつ、自分

の前で槍を構え続ける父の役に立ちたい、と必死で後ろから援護してきましたが、父娘で挑んだ大

江山ではあと一歩朱点童子に届きませんでした(石猿に時間を取られすぎました/実話)。


 天狼は自らの手で体の弱い娘を呪いから解き放ってやれなかったことに落胆はしましたが、自分

には天運がなかったからだろう、と割り切ってもいて、願わくば織姫がその子とともに朱点童子を

打倒できれば、と思っていました。

 しかし織姫の方は、自分が足を引っ張ったから父様を呪いに縛られたまま死なせることになって

しまう、と悲嘆にくれました。大江山の門が閉じた二ヵ月後、交神に臨んだ織姫はただ「体の弱い

私に強い子を授けてくださる神様を」とだけイツ花に伝え、その結果相手として選ばれたのが身長

2m近い巨漢の火神・大隈爆円でした(想定198cm)。


 爆円は気ままで難しいことを考えるのは苦手な気性、大江山事件に関しては「めんどくさい」と

いうたいへんに適当な理由で我関せずを決め込んでいた神でした。また火山の神でもあった彼は気

性が激しく、そんな彼に北辰の娘との交神を、と昼子からお達しがあった時周囲は本気で心配しま

した(笑)。しかし当の本人は上機嫌でした。


 ――俺を相手に、とは骨のある女じゃねえか。

 ――織姫、か。人が作った御伽噺の女の名前なんだってな。じゃあ俺はさしずめ彦星さまか、人

の娘相手に夫婦の真似事ってのも悪くねえ。面白えじゃねえか。


 そんな風に軽いノリで臨んだ交神でしたが、相手の娘が見るからに清楚な美貌の持ち主だったので、

内心ラッキーという感じでもありました(笑)。しかし織姫の方は父以外の男と二人きりになるのは

勿論初めて、元々話し上手というわけでもなく、筋骨隆々たる巨漢の神を目の前にしてすっかり萎縮

していました。お酌をするにしても話をするにしても緊張しきっていて、爆円の方も女の心をほぐす

ような話術を心得ているわけもないので、なんとなく間が持たない、という雰囲気になりました。


 ――お前、どうして俺を交神相手に、って思ったんだ?俺がいい男だからか。


 目の覚めるような美貌を持ちながら、硬い表情で俯いたままの織姫をちょっとくらい笑わせてみた

くなって、爆円はそんな風に話しかけてがはははと笑いましたが、織姫の反応は思いがけないもので

した。


 ――貴方様は強大な力と強靭な体をお持ちの神様だと伺いました…どうか私に強い子をお授け下さ

い。

 ――私は鬼狩りの一族に生まれながら、父の足を引っ張ってばかりでした…私がもっともっと強け

れば、大江山の鬼を倒せたはずです。私のせいで、父は呪いに縛られたまま命を落とすでしょう…私

のせいなんです。

 ――過酷な戦に耐えられる力を持つ子を…どうかお授け下さい、お願いです。お願いです…。


 そう言って、ぽろぽろと涙を零し始めたので爆円は大いに慌てました(笑)。彼は瞬間湯沸かし

ごとく気性が激しい神ではありますが、女を泣かせるのはやはりきまりが悪いものがありました。し

かし、織姫が自分の神としての力を純粋に望んだ、という点についてはちょっとだけ不本意でした、

お世辞でも「はい」と言ってほしかったので(笑)。


 ――ああ、泣くな泣くな。ああその何だ、強い子を授けてやればいいんだな。


 北辰家での交神は、何度か触れているとおり人と全く同じ方法で行われます。交神、つまり神と一

族との命の交わりに必要な夫婦の契りは最初の一度でいいので、交神が済んでも交神月の間そのまま

ずっと滞在していてもいいし、用(笑)が済めばそれで終わり、としても構いませんでした。爆円は

自分の神の力だけを望み、心を開こうとしない織姫の相手をするのがめんどくさくなって、「いい女

だが、面倒だからさっさとやることやっちまって帰ろう」と思いました(その後子育てをするという

ことは、このときの彼の思考には含まれていませんでした/笑)。

 北辰一族の交神は、一族側の方に相手のことをよく知ってから、という意識が強い傾向があったの

で、顔合わせから交神に至るまでそれなりの時間を要し、その後も交神月の間は期間ぎりぎりまで滞

在するケースがほとんどでしたが、織姫の方もとにかく「強い子を授けてほしい」と願っていたので、

交神は顔合わせから程なくして、という流れになりました。

 しかし、爆円は織姫の身体を見た時その華奢さに驚きました。


 ――こんな身体で、鬼狩りなんかできるのか?


 この身体で戦に身を投じているのだとしたら、どれだけ無理を強いていることになるのだろう、と

爆円は思いました。また、彼は大江山の朱点童子がただの入れ物で、神々が20柱がかりで封じている

モノに過ぎない、ということは流石に知っていましたが、そのことについては昼子から緘口令が敷か

れていました。昼子が他言無用とした理由は、『風ノ絆』で御鏡家での昼子が黒蝿に告げたのとほぼ

同じで、


 ――大江山の鬼のこと、他言は無用です。朱点童子の策に乗ってしまったのは彼ら、わざわざ教え

てあげる必要もないでしょう。

 ――敵であるものがどれほど無邪気で悪辣であるか…彼らは思い知ることになるでしょう。これは

彼らが新しい一歩を踏み出すのに必要なことです。


 北辰家でのイツ花と昼子の関係も、日下部・御鏡と同じく『イツ花は昼子の一部で、人として生き

ていた頃の情を切り離した存在、北辰家を精神的に支えるために送り出したもの』『イツ花は昼子の

意識を持っていない』ということになっているので、このときの昼子は一族側がその結果どんな精神

的なショックを受けるか、そういったことは切り離して結論を出していました。

 爆円は、取り澄ましたまま何を考えているやら良く分からない昼子が苦手だったので、「それでい

いのか?」と思いつつも異論を唱えることはしませんでした。深く考える事も苦手な性分だったので、

「まあ人の世のことは俺にもよくわかんねえし、そんなもんか」と軽く片付けて、交神に臨んでいた

のです。

 しかし、儀式が終わって身体的な苦痛でぐったりしていた織姫は、それでも苦労しながら身を起こ

すと蒼白な顔に涙を浮かべ、爆円に深々と頭を下げました。


 ――有難うございました…どうかこの子は朱点童子を討ち果たし、呪いのない生が歩めますように。

 ――私、この子を命をかけて守ります…有難うございました。


 安堵と感謝の涙をぽろぽろと流しながらただ御礼を述べる織姫を前にして、爆円はちくりと心の奥が

痛むのを感じました。


 ――お前、あれはただの…入れ物なんだぞ?


 織姫はそんなことを勿論知らず、黄川人のことは『自分達と同じように呪いをかけられた天の使い』

と思っていましたし、大江山の朱点童子が自分達の倒すべき相手だと信じていました。このまま大江山

に行って、織姫が真実を知ったらどうするんだろう――今これだけ自分の身を削って生きている娘が、

『大江山の朱点童子の真の姿』を見たら。悲しみのあまり死んでしまうんじゃないだろうか。爆円は心

配になりました。

 昼子は爆円に「これは彼らにとって必要なことです」とも言い含めていたので、「必要なことならし

ょうがねえのかな」と思いつつも(このへんも彼が気ままに生きてきた神としての認識の薄さでした)、

やることだけやって(他に言い方はないのか)さっさと帰ろうとしていた気持ちが薄れていくのを感じ

ました。織姫の悲しみの涙や悲しみからくる笑顔以外の、嬉しそうな顔を見てみたいと思ったのです。

ちょっとぐらいここで笑顔になってみたら、必要なこととはいえ大江山で辛いものを見たとしても、

悲しみで死んでしまうようなことはないんじゃないか、と彼なりに考えた結果でした。


 ――用事はこれで終いだ、でも折角だからもうちょっとゆっくりしていったらどうだ。

 ――俺もお前みたいな女と会うのは初めてだしな。こういうのも悪くねえと思った。


 俯いてぽろぽろと涙をこぼしていた織姫は、爆円の思いがけない申し出に目を丸くして戸惑いました。


 ――で、でも…私はあなた様に喜んでいただけるようなことは何一つできません、昔からただ戦ごと

ばかりを覚えてきましたから…。


 今までの爆円だったら、自分の申し出を拒絶するなんて何事だと即座にヘソを曲げたところですが

(笑)、オロオロする織姫に子供のような笑みを浮かべました。


 ――別に何もしなくていい。俺はただお前が笑った顔が見てみたいだけだ。


 彼もまた非常にダイレクトな物言い(笑)しかできない気性でしたが、そんな風にダイレクトに言わ

れて織姫は真っ赤になってうろたえました。


 ――わ、笑った顔…ですか?


 ――ああ。見てみたい。お前はどうしたら笑うんだ?くすぐればいいんだっけか?


 論点が微妙にずれていますが、真顔でそんなことを言う爆円に思わず織姫もくすりと笑ってしまいま

した。


 ――くすぐれば、って…それは確かに笑うかもしれませんけれど、あなた様がお望みなのはそういう

笑いではないのでしょう?


 織姫が笑ったので、爆円は目に見えて大喜びしました。


 ――お、笑ったな!ほらな、笑ったら見違えるように別嬪になったじゃねえか。いいぞ、もっと笑っ

てみろ。


 爆円のリアクションがあまりにも無邪気で子供のような喜び方だったので、織姫は真っ赤になりつつ

も温かい気持ちになるのを感じました。


 ――そ、そんな…ええと、私は。


 ――なんだ、俺は別にお前の茹だったみたいな面が見たいわけじゃねえぞ。


 ――だって、爆円様がそんな風に仰るから。


 ニコニコ笑う爆円につられるようにして、織姫は今度は心からの笑顔を浮かべました。相手が神だから、

と一歩も二歩も引いて萎縮していた織姫でしたが、漸く緊張が解けました。相手のことを「爆円様」と名

で呼んだのも、これが初めてでした。


 ――別に何しろとも言わねえよ。俺は下界のことはあまり知らねえから、お前が日ごろ何してるとか、

そんなことでも聴くだけで面白え。お前もそんなコチコチになってねえで、聞いてみたいことがあったら

遠慮なく言え。神の話を聞けるなんざ、そうそうねえぞ。


 ぶっきらぼうながら、彼なりに自分を元気付けてくれてるのだ、と思った織姫は、下界の父が気がかり

ではありましたが、交神月で滞在できる間館に留まることにしました(天狼の方も、娘が自分のように交

神で心の安らぎを得られるようであればよいと思っていたので、「俺のことは気にせずゆっくりと過ごし

てくるといい」と送り出していました)。爆円は気の利いた話題は得意ではありませんでしたが、神々と

のやり取りやこういうやつと酒を飲んだらこんなことがあった、とかそんな話をしてくれ、織姫がそのた

びに笑ったり頷いたりするので、益々得意げになって話をしました。

 そんな風に一月を過ごした織姫は、戻るときに再び涙を零しました。


 ――有難うございました。私、下界に戻っても…爆円様と過ごしたこと、忘れません。

 ――これからも、前を向いて戦っていける…そう思えます。有難うございました…。


 爆円はそんな織姫の華奢で小柄な身体を、荒っぽく抱き寄せて笑いました。


 ――馬鹿、泣くやつがあるか。俺は神だからな、下界のことなんざ見ようと思えばいつだって見られる

んだ。だから泣くな。


 ――はい。


 織姫と別れた後、爆円のもとには織姫との子供がもたらされました。それが後に6代目当主となる計都で、

祖母のお雫の水の要素を強く受け継いだ計都は、青みがかった銀色の髪と桔梗色の瞳に、織姫ゆずりの輝く

ような美貌を持つ女の子でした。爆円は思いがけず愛らしい娘を得てそれこそ相好を崩しまくって可愛がり、

天界では「あの粗暴なやつが随分と可愛い子供を作って、すっかり丸くなった」と話題になりました(うち

の神様はそんなのばっかりだな)


 しかし、織姫が7ヶ月の計都とともに臨んだ大江山での戦いは、『沈丁花の咲く庭』の第1話で触れたよう

に、母・織姫と祖父・天狼のために頑張らなきゃと功を焦った計都が左目を失い、挙句真の朱点童子の解放

を目の当たりにするという大変残酷な結末となりました。

 爆円はその様子を天から見ていましたが、『本当に必要なこと』だったのかという後悔の念が沸き起こっ

てくるのを感じていました。天にいたころから愛らしかった計都の顔に酷い傷がついてしまったこと、その

後計都がショックから笑うこともしゃべることもなくただ放心した状態になっているのも、彼の心に大きな

衝撃を与えました。


 ――俺があの時、『大江山の朱点童子はただの入れ物なんだ』と教えていればよかったんじゃないのか?


 『朱点童子打倒』を悲願としていた織姫が、交神の段階でそのことを知ったらショックを受けたかもしれ

ませんが、予め知っていれば落胆も少なかったはずだ、と爆円は思いました。何より――計都があんな姿に

なることも防げたのではないのか、と。昼子の言葉を鵜呑みにして「そんなもんか」などと思っていた自分

にふつふつと怒りがこみ上げてきていた爆円のもとを、他の神様たちが訪れました。


 ――何をそんなしけた面してる、大江山の封印をなしていた連中が戻ってきたぞ。祝宴だってよ、お前も

来いよ。


 ――うるせえな、行かねえよ。


 ――お前の娘、大江山で大怪我したんだってな。だけどそれは戦の中でのことなんだから、その娘にも運

がなかったんだろうさ。俺たちは北辰のやつらの戦には手出しできない。だったら仕方ないことだろ。可哀

想かもしれないが、下界に送り出した時点で諦めろよ。


 爆円は他の神様たちからそう宥められて、まだ釈然としないまま一緒に宴に参加しに行きました。

 そのころ、織姫は計都が片目を失ってしまったことへの自責の念にかられていました。自分はこの子を命

をかけて守ると誓ったはずなのに、結局守ることができなかった、と。織姫は自分の余命がわずかであるこ

とも悟っていたので、最期の責務として大江山の結果を内裏に報告しに赴きました。大江山でのことは筆頭

討伐隊としては大失態以外の何者でもなく、織姫はその責を問われることになりましたが、花の盛りという

年頃に酷い傷を負って、笑う事もしゃべることもできなくなってしまった計都が今後心静かに過ごせるよう、

そのことだけは保障してほしい、自分の命はどうなっても構わない、と懸命に訴え、「沙汰があるまで参内

は控えること」「このことで北辰家になにがしかの嫌がらせなり何なりがあったとしても、こちらは一切関

与しない」ということを取り付けました。

 しかし、織姫はその帰り道、選考会で北辰家に破れたために選考に漏れて、織姫のことを逆恨みしていた

たちの悪い連中にからまれてしまいました。抗うことも拒否することもできない立場だった織姫は、男たち

から残酷な辱めを受けたのです。元々命を落としても構わない覚悟で臨んだ参内ではありましたが、彼女を

待っていたのは武人として咎を問われるものではなく、女性としての尊厳を著しく傷つけられる仕打ちでし

た。織姫は心までは屈しない、と声を一切発することなくその仕打ちに耐えましたが、爆円が今の自分を見

たらどんなに失望するだろう、と思うと涙を零しました。

 「計都が戦いの中で酷い怪我をしたのは仕方のないことだ」と宥められた爆円でしたが、織姫が大江山で

の失態につけこまれてそのような目に会った、ということを知ったのは、大江山が閉山した翌月に娘の計都

が『他家氏神を分社勧請しての交神』に臨んだ、という話を聞いた時でした。

 俺屍部屋に収録した計都の語りで触れましたが、帰宅した織姫の姿を見た計都は、母が手荒なことをされ

た、と酷く憤り(計都は交神前だったので、幸か不幸か織姫が実際どのような目にあったかに気づきません

でした)、北辰の血は私が繋ぎますと決意して交神に臨んでいました。しかし大江山の朱点童子が真のもの

ではなかったということを教えてくれなかった天界を信用することができず、他家氏神――列島八千矛様を

交神の相手に望んだのでした。

 大江山の朱点童子がただの入れ物だった、ということを初めから教えていれば、織姫があんな目に会うこ

とは絶対になかったはずだ――爆円は、計都が顔に傷を負ったことに引き続いての残酷な結末に、再び怒り

がこみ上げてきました。そして、計都が天界108柱の神ではない、元は人であった神――氏神を相手に選ん

だ、ということも爆円には衝撃でした。計都が自分達神々を信用していないためだ、と思ったからでした。

 「そんなもんか」などと昼子の言葉を鵜呑みにして織姫に真実を伝えることをせず、しかも織姫が惨い仕

打ちを受けている頃は他の神様たちに宥められて祝宴に出かけていた――爆円は自分自身にやり場のない激

しい怒りを覚えました。元々深く考えることは苦手で短絡的な行動をする彼は、その足で昼子のもとへ行こ

うとしました。だからあれはただの入れ物だ、って最初から教えてやればよかったんだ、何が『必要なこと』

だ、と怒鳴りつけてやりたくなったのです。


 ――馬鹿、そんなことをして何になるってんだ!最高神に逆らったらお前、ただじゃ済まねえぞ!


 爆円の尋常じゃない剣幕を見咎めた火車丸(仲がいい)が止めようとしましたが、火車丸を上回る偉丈夫

の爆円はその程度では止まろうとしませんでした。昼子の宮の近くでそんな風に悶着が起きて、最終的には

封印から帰還した不動泰山(火神の元締め)に一喝されて漸くおとなしくなったという。


 ――そう思うのならば、何故最初に禁を破ってでもそうしてやらなかった。後になって八つ当たりをする

など愚かのきわみ、頭を冷やせ!


 この騒ぎは勿論宮の中にいる昼子の耳にも届いていましたが、昼子は爆円を咎めることはしませんでした。

北辰家での昼子も一族を悪いようにするつもりはなかったので、一族に思いいれを深くする神が多ければ多

いほど、反対派が動きづらくなるだろう――そう判断してのことでした。この騒ぎは後になって、イツ花を

通じて計都が知ることにもなり、「父様は私のことを覚えていて下さったんだ」と計都の天界への不審感が

多少和らぐ結果ともなりました。

 計都は私が散々暑苦しく語っているように(笑)交神を通じて最愛の旦那様を得、見違えるように穏やか

な顔になって下界へ戻ってきたので、織姫は心から安堵しました。そして残り少ない命を限界まで削って娘

の傍で戦いに赴き、計都と列島八千矛様との間に生まれた娘・掬星の指南をした後、灯火が消えるようにそ

の命を終えました。


 下界で命を終えた魂は魂寄せお蛍のもとに集められて幽世へと送られますが、織姫の魂はすぐには送られ

ることはありませんでした。お蛍から「しばしお待ちを」と言われ、なんだろうと思っていたところへ――

大隈爆円が現れたのです。

 織姫は、望まなかったこととはいえ、男たちに汚されてしまった自分はもう爆円に会う資格はないだろう

と思っていたのですが、爆円は泣きながらそんな織姫の華奢な身体を抱きしめました。


 ――織姫、済まなかった。俺は全部知っていたんだ、知っていたのにお前に教えなかった。

 ――辛かったろう、苦しかったろう。許してくれ。済まなかった…。


 爆円の逞しい腕に身を委ねながら、織姫も「いいえ」と答えるのがやっとで、愛するひととの再会に喜び

の涙を流したのでした。織姫は氏神になることはできませんでしたが、最期を爆円に見送られて幽世へと旅

立っていきました。


 お祭りに投稿した時は、【絆】【季節物】のお題での投稿でした。このふたりはとにかく、旦那の方が実

にオープンで荒っぽい愛情表現をするので(笑)、糖度の高い絵を中々思いつきづらく、一番印象的なシー

ン…というとやはり最期の別れかな、ということでこうなりました。爆円と織姫は40cmちょいの身長差があ

るので、織姫が爆円に抱きしめられるとこんな感じになるわけですが、二人の体格差についてのコメントを

頂けてうれしかったです…一つの画面に収まりにくいという苦労はありましたが(笑)


 色鉛筆で主線、コピック+色鉛筆+シグノの白+エアブラシで着彩後、CGで蛍の効果を入れました。