沙羅

御鏡家・当主の日記(八代目当主沙羅)
一〇二四年一月    呉葉姉さんが交神した。お相手は、やたノ黒蝿様。イツ花に神様の肖像を見せてもらった時、みんなできゃーきゃ ー言って大騒ぎした神様なの。いい男じゃない?だから、呉葉姉さんが交神しに行った時、あたし心底羨ましかった わ。姉さんが終わったら次はあたしも黒蝿様にしようかなって本気で思ってたんだけどね。  だから呉葉姉さんがもどってきた時、あたし真っ先にどうだった?って聞きに行ったのよ。そうしたら、意外にも 「ありゃーダメだね。男として最悪」みたいな返事が返ってくるから、??って首を傾げてたらイツ花が教えてくれ た。  聞くと黒蝿様、交神の時「よりによって俺か」なんて言ったんだって。「そりゃあたしらは、善意で神様に手助け してもらってる身だろうけどね。年頃のめかしこんだ娘相手に『よりによって俺か』って何だよそれ。そんなにあた しがイヤかよこの野郎、って思ったね」って姉さんはだいぶ不機嫌だった。あーあ、よりによって一番言っちゃいけ ない人に言っちゃったわねー。イツ花からさらに聞いたけど、姉さんたら問題の「よりによって俺か」の直後に頭来 て殴ろうとしたんだって…いくら口が悪くて配慮が足りなくても神様なんでしょ、一応。避けられちゃったみたいだ けど、姉さんもやるわねー、すごーい(笑)。  うーん、あたしどうしようかな。黒蝿様のつもりでいたけど、大体目標の奉納点であたし好みっていうと…愛染院 様はちょっと奉納点低いし、鳳様は逆に高いしなー。タタラ様みたいなワイルドな男も、まあ嫌いじゃないけどどっ ちかと言えば優男の方が好きだし、大体タタラ様は菜摘姉さんのだからねー、邪魔しちゃ悪いじゃない(笑)。 一〇二四年二月  九条楼強化月間だったから、九条楼に行くことにしたんだけど…はるばる終階までたどりついてみたら太刀風・雷 電様たちはいなかった。…そういや、年の初めに討伐したっけ。忘れてた、あははは。すっかり忘れてたあたしも悪 いんだけど、一緒だったのが刃と美桜ってのがまたよくなかったのよねー。二人揃って不思議そうな顔してたから、 多分太刀風・雷電様たちを倒したのは覚えてたんだけど、何で終階まで行くのかな??って不思議に思いながらつい てきてたんだと思うのよ。…責任転嫁なのはわかってるけど、分かってんなら止めてよあんたたち(笑)。 一〇二四年三月  呉葉姉さんの子供が来た。凱って言う名前のその子は、愛嬌のある感じで中々の美男。でもね、生まれつき目が見 えないんだって。黒蝿様が朱ノ首輪はまってたでしょ?あの呪いの名残みたいなのがまだ黒蝿様の中に残ってて、交 神した時にそれがよくない方向に出ちゃったんじゃないか、って話だった。それでも、凱は目が見えない代わりに、 周囲がどうなってるかを感じ取ることが出来るんだって。何だ、じゃあ討伐先じゃ逆に有利だったりしない?案外目 に頼りがちだからね、あたしたち。呉葉姉さんも予め凱の目のことは聞いてたそうなんだけど、全然気にしてなかっ たよ。この子が来たらきっと楽しいことになるよ、あたしの子供だもん、なんて言い切ってた。姉さんのこういうと こ、あたし好きよ(笑)。凱の名前は凱旋の凱、なんだって。なんか縁起よさそうじゃない?朱点討伐とかしちゃえ そうじゃない?(笑)  …なんだけど、凱っておねしょが直ってないんだって。黒蝿様、あんなこと言う割には躾がなってないじゃない。 気乗りしなかったのかなー、無責任なんだから。  「大丈夫。何とかします!」ってイツ花がバァーンと言ってくれたんだけど、姉さんは「あたしが指導するから、 そん時に直させる」って言って断ってた。凱ったら、それからはおねしょするたびに姉さんに殴られてたみたい。そ の甲斐あって(?)初陣までには直ったみたいだけど。しかも、姉さんの躾によって凱は妙にうたれ強い子になった。 こういうのを不幸中の幸いっていうのかな?(笑) 一〇二四年四月  今月はあたしの交神月。結局迷いに迷って、根来ノ双角様にした。顔が面つけててよくわかんないけど、目元が何 となく精悍そうだったし、素質もいい感じだったし。イツ花に聞いてみたら、そりゃもうマジメが鎧を着ちゃったよ うな感じの方なんだそうよ。  大丈夫かな、堅物だったらちょっと間がもたないかも…と心配だったんだけど、実際に会ってみたらね。なんかす っごくカチンコチンになってて、「未熟者ゆえ不手際をご容赦あれ」だって…あれっ?ひょっとして勘違いしてる? (笑)イツ花が「あのォ、交神は別にナニをするわけでもなく、儀式ですからね?」と教えてあげたら、目元まで真 っ赤になっちゃった。どうも、誰か人の悪い(?)神様に嘘を教えられちゃったみたいで、交神ってほんとにいわゆ るそういうことするもんだっ、って頭から信じてたんだって。でも女の子とお付き合いしたことなんてないし、失礼 があったらいけない、って緊張してたんだって…やだ、何か凄く可愛いんだけど(笑)。  で。あたしったらすっかりこの神様のこと気に入っちゃって、折角そういうつもりで来てくれたんだったらお願い しちゃいます!ってことで、そういうことになったわ。菜摘姉さんの気持ちちょっと分かった気がする。呉葉姉さん は呆れてたけど、人生短いんだからやることやっとかないと損よー。呉葉姉さんはそういうとこ、意外と固いのよね。  ちなみに、双角様の素顔は美男だったわ(笑)。黒髪長髪で結構いい体格の美男。あたしの目に狂いはなかったわ ね!   一〇二四年六月  あたしと根来ノ双角様の娘が来た。この頃は、うちの一族は緑色や金色の髪ばっかりだったんだけど、娘は赤い髪 だったから火輪って名づけた。それで、技の土が強かったし、岩石落としを装備させて一族初の壊し屋にすることに した。  …女の子に何もそんな力強い職業やらせなくても、って思うでしょ?実際火輪は親のあたしが言うのもなんだけど、 すこぶる付きの美少女だったの!ほんとに可愛いんだから。でもね。気性もすっごく可愛いの…まず同じ一族だって のに、恥ずかしがって男とまともに話せないわけ。可憐なのは大変結構なことなんだけど、うちは鬼と戦う家なんだ からもうちょっと芯の強い子になってほしいなあ、って。  でもね、あたし凱と火輪はお似合いだと思うのよ。凱は顔もいいし、気立てもしっかり者じゃない?火輪は引っ込 み思案だから、凱ならひっぱってくれるかなあって。凱のお母さん、つまり呉葉姉さんは「気が早いよ」なんて笑っ てたけど、あたし結構本気なのよ?(笑)あの子達が朱点ぶっ飛ばしてまっとうな体になって、夫婦者になったりし ちゃったら素敵じゃない!
 
当主の日記・菜摘へ 『俺屍部屋』へ