御鏡家・当主の日記（四代目当主建）


一〇一九年十二月

　父さんの後を継いだ狐焔兄さんが死んだ。まだ1歳5ヶ月だってのに早すぎるよな。狐焔兄さんは自分が当主として

至らなかったんじゃねえかって思ってたみたいだけど、俺にはそんな感じなかったけどな。

　で、あれっ？と思ってるうちに俺が当主になっちまった。…うーんマジで？当主って結構めんどくさそうじゃねえ

か、色々記録とかお勤めとかなんとか。まあいっか、そういうのは光輝にやらせれば。日記ぐらいは書いてやるか。



一〇二〇年五月
　
　従弟で物知りの光輝が、『拳の指南』の情報をどっからか持ってきた。おいおい、女拳法家の服いいなあ！すげー

かわいいじゃん！と思った瞬間、俺は娘（←注：まだ交神してない）を拳法家にしてやろうと決意した。

　どうやら拳の指南は九条楼にあるらしいことが分かった。よし、みんな俺について来い。なんとしても取りに行っ

てやるぜ。…が、今月は取れなかった。しょうがねえな、次の月だ。粘着気質だと？大きなお世話だぞ光輝。



一〇二〇年七月

　円姉ちゃんの娘・露葉が来訪した。青い髪に長い髪のすっげえ可愛い女の子だ！同じ一族で、年下の可愛い女の子

っていいもんだな〜（しみじみ）。年下の女といえば慧麻のやつがいるが、あいつは10ヶ月年下の癖に俺のことを容

赦なくしばくからな。あいつは女じゃねえ（断言）よし、頑張ろう俺。絶対娘を授けてもらうぞ、可愛い娘に育てる

んだからな。

　今月は白骨城が現れてるので、気合で胡蝶の手袋を探しに行くことにした。無事先月に拳の指南も取れたしな。光

輝のやつがまだ何か言いたそうにしてたが、気づかないふりをした。いいだろ別に。拳法家が入れば戦力増強なんだか

ら。動機が不純だと？うるせえぞお前。



一〇二〇年八月

　交神した。目標奉納点は500前後の女神様だったが、俺は水母ノくらら様にお願いした。奉納点は目標の半分ぐらい

だったけどな。ざっと見た感じ、この神様ならかわいい女の子を授けてくれそうだなって思ってよ。

　水の神様だったら松葉ノお甲様もいらっしゃいますけど、なんてイツ花は言ったが、お甲様だと、何かものすげえ

たくましい漢が生まれてきそうだったからやめた。ほんとはお甲様みたいな漢気のある女神様も好みだけどな。あの

ダイナマイトな胸にボヨーンって飛び込んでみたかったけど、すべては娘のためだ。そしたらくらら様は、かわいい

声で「はい、承りました」。くぅーッ、いいねいいね！この方選んでよかったよ俺！そして生まれてくるのは娘だ！

すっげえかわいい娘！やったぜくらら様。



一〇二〇年九月

　鳥居千万宮へ出撃。巻物やら槌の指南やら武具やらを色々鬼どもからブンどってほくほくしてたら、狐の夜逃げ

（嫁入りだと？俺には夜逃げにしか見えねえよ）どもが団体さんでやってきて、お焔と夏狂乱を一斉に俺に向ってブ

チかましやがった。花火みたいで綺麗だったぜ、ははははは。で、意識が途切れた後、瞼の向こうで川が見えた。タ

クアンみたいな乳をぶら下げた悪趣味な船と、梅干みたいなしわくちゃのババアがブキミな笑顔を浮かべて手招きし

てやがったので、娘の顔を見るまで死ねるかぁあ！と怒鳴りつけて引き返してきた。そしたら、気づいたら家だった。

光輝と慧麻が一生懸命担いで来てくれたんだそうだ。手間かけたな。半泣き顔のイツ花から、心配かけるな、今度や

ったら「めっ！」だぞと怒られた。めっ！はやめろよ。もうガキじゃねーんだから。でも少しヒヤッとしたよ、危ね

ー危ねー。狐の団体さんには要注意だな。

　…つか、光輝と慧麻二人から「これで貸しだね」とか言われた…くそ、弱み握られたなァ…。あれは事故なんだか

ら大目に見てくれよ。



一〇二〇年十月

　俺の娘が来た。藻色の長い髪の、すっげえーーーーー可愛い娘がァ！（有頂天）光輝に「目じりが下がりっぱなし

ですよ」とからかわれたがそんなこたどうでもいいんだよ。俺は今すげえ幸せだ。今月来月と、家で娘と水入らずで

過ごすんだからな。娘の名前は藤乃。可愛い見た目にぴったりだろ？露葉と早速仲良くなったみたいだ。うんうん、

可愛い女の子が二人で仲良くしてるのっていいなァ（しみじみ）



一〇二〇年十一月

　俺は今月で1歳6ヶ月だ。父さんとその弟妹たち、祖母さんもみんなこの歳で死んでるんだと。イツ花も、ちょっと

短すぎると首をかしげてたらしい。が、俺はあと1月は死ぬつもりはない。何故なら、来月が愛娘、藤乃の初陣だから

だ！娘の拳法着姿を見るまでは死ねるか。地獄からの迎えが来たら玄関で追い返せとイツ花に言ったら、そんなお元

気ならまだまだ大丈夫ですよ、とか言いやがった。お前は一言多いんだよ。



一〇二〇年十二月

　藤乃は肩甲骨と鎖骨のラインが流れるような美少女なので、拳法家姿もまたよく似合っている。父さんは嬉しいぞ

（ニヤニヤ）。親馬鹿だと言われようが何だろうが、ほんとにかわいいからいいんだよ。が、どうやら俺も今月にお

迎えが来るらしいな。まぁいいさ、娘の拳法家姿が見られたから人生に悔いなしってとこだ。後は任せたぜ、光輝。

お前には色々苦労をかけたが、これも当主としてのお勤めに慣れさせるためだ。嘘つくなって？そういうことにしと

いてくれよ。