御鏡家・当主の日記（六代目当主藤乃）


一〇二一年六月
　
　五代目当主の光輝兄様が亡くなった。私が後を継いだはいいけれど、これからは私が一族を引っ張らなくちゃなら

ないんだ。やっていけるかどうか少し心配。

　考え込んでいたら、イツ花が新当主就任おめでとうございます、って挨拶にきて、その後耳元でこそこそっとこん

なこと言った。「ご幼少の頃、オネショしたお布団を洗って差し上げたことは内緒にしときますから、頑張ってくだ

さいネ！」…だって。ちょ、ちょっと！絶対バラさないでよ！って真っ赤になって念を押したら、イツ花は「やっと

いつもの当主様に戻ってくださいましたネ」ってにこーって笑った。イツ花らしい元気付け方で、ちょっと嬉しかっ

たけど…何だか弱みを握られたような気もするわ。気のせいってことにしとく。あれは父様も知らないんだからね、

絶対言わないでよね。



一〇二一年八月

　今月は白骨城が出てる。ここはひとつ、大江ノ捨丸のヤツを殴りに行って『竜神刀』をいただいてこようって思っ

た。あれはいい刀だって聞くし、眠りの効果もあるから持ってて損は無いじゃない？選考会なんか行ってる場合じゃ

ないわよ。そしたら、雅のやつがまだ無理だって言うわけ。あんた思慮深いのはいいことだけど、たまには勝負かけ

てみようって気はないの。父様ならこういうとき、とりあえずやるだけやってみようぜ、って言うわよ。

　雷幻は幸いやる気満々だったので、まだ文句たらたらの雅を無理矢理ひきずって白骨城へ行ってきたわ。露葉姉様

は、それでもまずいと思ったらすぐに逃げることを考えなよと忠告してくれた。わかってますって、私当主なんだか

らその辺はきちんと判断するわ。

　初めて見る鬼の大将、大江ノ捨丸は骸骨がくっついたような不気味な外観の鬼だった。大将ってだけあって尋常じゃ

ないぐらい硬いの、全然ダメージが行かないんだもん。雅がだから言わんこっちゃない、なんて文句言いつつ『武人』

をかけてくれた。雅って何だかんだいって、ちゃんと援護してくれるんだよね。もう少し腕っぷしが強かったら、あ

んたを迷わず次期当主に推挙するんだけどな…。

　露葉姉様も雷幻に『武人』をかけてくれたので、あたしたちが二人がかりでボコボコ殴って何とか勝てた。お目当

ての竜神刀は見事手に入れたわ。…一気に3本も…。だったら、残りの2本ぶんは別なのが欲しかったな。少し複雑な

気分だった。…って言うか、これ3本もこの世にあるものなの？唯一品、って聞いてたはずだけど…。まさか2本は贋

物とかじゃないでしょうね。



一〇二一年十二月

　露葉姉様の息子がやって来た。露葉姉様に似て、長い髪に綺麗な顔立ちの男の子。さぞかし、女の子が騒ぐだろう

なって思っていたら、ててて…と私のところにイツ花がやってきて、「若君様ってば、お尻の形がすっごくかっこい

いんです！やっぱり殿方はお尻ですよ！」と目を爛々と輝かせて力説するわけ。い、イツ花怖い…。その後も、遮那

と名づけられたその子は、家にいる間イツ花の惚れ惚れする視線に追っかけまわされっぱなしで半泣き顔だった。か

わいそう。

　御鏡の家では別に職業は世襲制じゃないんだけど、本人が熱烈に希望するので露葉姉様の跡を継いで弓使いになっ

た。弓使いの服は身体の線がほとんどわかんないから、この職業を選んだ気持ちは分かるような気がするわ…。強く

生きるのよ。

　それを見届けてから交神に行ってきたわ。お相手は十六夜伏丸様。素質も申し分ない方だったし、どことなく父様

みたいな温かみのある方だなと思った…んだけど、それを言ったら露葉姉様とイツ花が固まっちゃって…。な、何？

何で二人とも「建様が知ったら卒倒しちゃうかも」なんていうの？（汗）私はほんとに父様に似てるかな、って思っ

た…んだけど。見込み違いだったかなあ。




一〇二二年二月

　私と十六夜伏丸様の娘がきた。伏丸様はやっぱり私の見立てどおりとてもいい方だったわよ。何でイツ花はそんな

複雑な顔するのか、よくわかんないんだけど…。娘は、緑の髪が私そっくり。菜摘っていう名前をつけてあげた。技

の水が強かったから、こないだ気合で取ってきた竜神刀をあげることにしたんだけど、菜摘も気に入ってくれたみた

い。3本もあるんだし、使わないと勿体無いじゃない？よかったぁ。


　この子がうちに来た時、イツ花が「おヘソの形が当主様そっくりですよ」なんて言うから、雷幻と雅がヘンな顔し

てこっち見るのよ。べ、別に出ベソじゃないからね！もう、イツ花か妙なこと言うから誤解されちゃったじゃない。

でも一応気になったから、一緒にお風呂入った時にこの子のと見比べてみた。そういわれてみると似てるような似て

ないような…別段、さして特徴のあるおへそでもないと思うんだけど。イツ花、何を基準に言ってるの？それ。





一〇二二年八月

　みんながそろそろ選考会に出てみたいと言うので、じゃあ出てみたらいいじゃない、って送り出した。大江ノ捨丸

と戦えたんだからきっと大丈夫よね。私は家で留守番。もう1歳10ヶ月だから、ここのところずっと体調がすぐれない

の。多分今月中には命が尽きると思う。みんなどうしてるかな？頑張ってるかな？って心配してたら、みんな意気揚

揚と帰ってきた。初出場で、優勝だって。みんな、家で臥せってる私のために絶対優勝してやるつもりだったよ、な

んて言うから危うく泣きそうになっちゃった。みんな有難う。あとは菜摘にまかせることにするわ、宜しくね。